白昼夢記録「ブルードーザーと電話帳」

綺麗な奥さんが手招きしながら言った。

「サッシの引き戸が動かないんです」
私は、塀を乗り越えた。

「お任せください」
動かそうと何度も試みた。

汗が噴き出た。

その時頭の中でプチンと音がした。

私は誰かの大型のブルドーザーに飛び乗りエンジンをかけた。

「奥さん逃げて下さい!」
私は大声で叫んだ。

塀を突き破り、家に突っ込んだ。

「奥さん、サッシが開きましたよ」
パトカーがやってきた。

親切な行動が誇らしかった。

皆が私を称賛している。

狭い部屋に入れられ質問攻めにあった。

「器物損壊という言葉を知っているか」
「刑事さん、ドアは勇気で開くのです。

あとはプチンと音がした。

補修代はプチンが払います」
その後のことは何も覚えていない。

次の日仕事に行こうと玄関で靴ひもを締めていると。

玄関のドアを叩く者がいた。

あまりに大きな音だったので慌ててドアを開けるとそこには麦わら帽子を被った男が立っていた。

知り合いの家が見つからないという。

私はにっこりと笑ってこう言った。

「前から住んでいる人なのでしょう?電話番号を調べたらいいじゃないですか」と。

男は何も言わず立ったままだった。

ずぼらな私がずっと前から納戸に放り込んでいた電話帳を、重いのを耐えながら男の前に積んでいった。

電話帳の量はすさまじいものだった。

なぜなら私は電話マニアで、拾ったり、もらったりして相当量を家に置いていた。

玄関いっぱいにに積まれた電話帳を見て男が言った。

「なんてすばらしい眺めなんだ」と。

男はてきぱきと私の家の前に止めていた軽トラックに電話帳を乗せはじめた。

すさまじい速さだった。

乗せ終わると彼は一枚の真っ白なサイン用の色紙を取り出し、目にも止まらぬ速さでサインをし、誇らしげに私に差し出してこう言った。

「遠慮はいらないのですよ。

このサインは誰でも持っているものではない。

世界に一枚しかないのです」と。

そう言うと朗らかに笑って車に乗り込んだ。

そしてこう言った。

「何年かけてでも探し出しますよ。

特に急な用事でもないんだから」と。

私も私だが、彼も彼である。

こんな出会いもなかなか面白いものだと思った

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする